小さくて透き通る声、前髪がぱっつんのそいつ。
沙耶のことを「よんさま」なんてふざけたあだなで呼んでいる、そいつが
みよ子だった。
俺のこと「つーくん」って呼ぶその声が、俺を見上げるその仕草が、
かわいくて。恋に落ちるまではあっという間だった。
それからイチとの4人でつるんだりするうちに、みよ子がイチの事好きになっていくのが
もう、手に取るようにわかった。
めっちゃ顔にでやすい。視線の先を追えばいつだってイチがいる。
「みよ子イチのこと好きだべ」ってからかうとむきになって「そんなことない」なんて言うから、
俺の気持ちは、暗い引き出しに丁寧につつんでしまった。
臭いものに蓋をする、じゃないけど。そうすれば苦しくないなんて。つまり俺は逃げたわけです。
右手で髪をくしゃくしゃにしたり、冗談で抱きしめてやったり、
適当にほどよい「友達」でいたつもりだったのに。
イチのことを想って泣くみよ子の姿が、いたくて、その矢印が俺んとこ向かないかなって
いつからか願ってしまうんだよ。片思いがこんなにつらいなんて思ってなかった。
せめてイチととっととくっついてくれたなら、俺だって忘れられたかもしれないさ。
むぎちゃんが悪いのか?イチか、みよ子か、沙耶か…おれか?
みんなして中途半端で、地団駄ばっかして、前に進めてない。腹立つ。
もうそろそろ、隠してるのにも限界だ。きっと沙耶あたりは気づいてる。
みよ子が、もっと計算高くて、あんな仕草とかも全部偽物で、そうしたら嫌いになれたかもしれないのに。
…ってそんなみよ子だったら最初から好きになんかなってないか。
誰か俺のかわりに、未来とか運命変えてくれないかな。
そんなこと真剣に悩んだって、ああ、きっと変わらないな。