「そういえば、この間の明後日暇?っていうメール、流れちゃったね」
みよ子の家から帰って何分後かにメールが入ってた。
そういえばそんなメール送ったな。忘れてた。イチが色々あったりするからいけないんだ。
…人のせいにしてどうなる、みたいな。
「ごめん。俺も忘れてた。まあ、またケーキ持って遊びに行くわ」
ケーキの絵文字を件名にしてみた。はは、キャラじゃないな。
明日はみよ子のいない旅行だ。物足りなく感じる、かな。
まだ寒い海でバカなことして晴らしたい憂さがいっぱいある。
あーもー、なんで俺は女に囲まれた家族のもとに生まれてきたんだ!
毎日まいにち、みよ子と沙耶のどっちが好きなのか聞いてくるのはやめてくれ…!
かーちゃんまでその会話に入ろうとしてるもんだから、とうちゃん ひとりぼっちじゃねーか。
(そのうち とうちゃんまで「とーちゃんはみよ子ちゃんがタイプだぞ」とか言い出したら…死ぬな、俺)
「よ、」「おう」イチが寝癖のまま俺に挨拶。遊びにこいと誘ったのはイチだよな?
「つーくんっ」後ろにハートマークが乱舞している「いーちくんっ」俺も負けてはられない。
「明日どこ行くんだっけ?」「は?海に行きたいって言ってたよな?」
「あー、そうだっけ。遠いの?」「まあ、それなりには、な」「日帰りだっけ?」
「(寝ぼけてんのか?)そうだけど」「俺ら、青春だね」「そーだな」
「つーくん、」「ん?」「…いいや、なんでもない。」
顔洗ってくる、とだけ言い残してイチは部屋から去っていった。
それからイチの弟くんが開けっ放しのドアの前を通って「久しぶりーっす!」
女の子を隣に連れて、過ぎていった。くそ、うらやましい。
戻ってきてからイチにそれを言うと「青春なんだろ」と、さっき「青春だね」と言ったのが
まるで俺みたいな言い方をした。なんだこいつ。
「……」「…イチ?」「つーくんさ」「んだよ、さっきから」
「みーちゃんが好きなんだっけ?」「…おう」「じゃあ、よんさまは?」
「は?友達、くされ縁、近所、親が仲良し…だけど?」「そっか」「沙耶がどうした?」「なんでもない」
つーくんもまだまだレアだね、そう意味深にイチはつぶやいて一緒にパンをかじった。
俺はこれからのことなんて思いもせずに、メロンパンをかじっていた。
もし、もしもそのときシナモンロールだったら…、なんて。
自分がシナモン苦手ってことすらも忘れて、意味のない想像をしていた