ツトムが持ってきた、去年の残りモノだというしけた花火を、海の近くの公園ですることになった。
警察さんにお世話にならないように音はしない感じの、手持ち花火と線香花火。
普通の花火はあっという間に終わったくせに、線香花火だけがやたらと多いから、花火開始4分後で線香花火だ。
さっきまで馬鹿笑いしてたのとは雰囲気全然違うんですけど。
「あたしね?」「うん、」よんさまが口を開いて、ツトムが頷いた。
けれど結局よんさまは「やっぱりいいや」そう言って、続きは聞けなかった。
しん、と静まりかえる。線香花火。いつもなら、誰が一番長く続くかで競ってたはずなのに。
遊び疲れた?一人足りないから?…それと、プラスアルファ、かな。
よんさまの視線にツトムがいた。よんさまは幸せそうで、すげー苦しそうな顔、をしているように見えた。
考えてる事はわからないけれど、言ってしまえば変わる?どうだろ。
「よんさま」「んー?」「俺とつきあわね?」少し驚いた顔した後に、「いーよ」さっきと同じに笑ってた。
「俺も仲間にいれろや、寂しいじゃんか」「ハニー、ごめんよ。本気なんだ」
「ダーリン、そうだったの?ハニーをおいてくの?」「ごめん、これは冗談。よんさまには本気。よんさまは?」
「あたしも本気」「…冗談に聞こえなくなってきたんだけど」「冗談じゃないって」
「は?またまた、そんな事言っちゃって。沙耶も何言ってんの?」
「何って…?」「お前みよ子の気持ち知ってんだろ?嘘でもだめだろ」
「んー、まあね」「まあねってなんだよ」静かに怒りが言葉の中に混じり始めるツトム。
「あたしにだって好きな人と付き合う権利くらいあるでしょう?」困ったように笑うよんさま。
「それは、みよ子の一番近くにいたやつが言う台詞じゃねーって。」
「そこまで言う、ツトムは何なの?」「は?」
「そそ、俺らは俺らだよ。」「そうじゃねえだろ、」
続きを言おうとしていたツトムを遮って、口を開いたよんさま。
「じゃあ、」息をすいなおして、「ツトムは、考えたことある?」
「なにを?」「ほらね。何にもわかってない。」よんさまの零した涙に、
ツトムは心に黒いクエスチョンマークを浮かべて、何も言えなくなっていた。
「ツトム、俺ら最終で帰るわ。明後日学校でな」
無言の返事を背中にして、よんさまの右手を引いて、朝に歩いた道をもう一度たどった。
最終の電車がくるまであと15分。「ありがと」「んー?何を?」「ほんとはあたしから言う予定だったんだよ」
「あはは。そうだったの?」
「…なんで、つきあお なんて言ったの?」俺の目をまっすぐ見て、
「みーちゃんの気持ち、本当は気づいてたよね?」そう、言った。
「だって、よんさまの考えてること、見えちゃったから」「え、」「顔にもろに」「うっそ!」
「大丈夫、ツトムは気づかないよ」「そっか」
「ツトムが好きなのに、諦めようって無理してる顔してた」「…いっちゃん鋭すぎ」
「違う、みーちゃんとツトムが鈍感すぎるだけ」「そだね」
「ばかだよなーツトムも。マジギレだったよね」
「…みーちゃんの気持ちに応えようとは思わなかったの?」
「それよりも、優先しちゃった。」「ツトムを?」「よんさまと、ね」
「当の本人、すっごい怒ってたよね。」「まあ、それも良い方向に向かうはずだよ」
「…だと、いいけど。」よんさまは、深い深いため息をついた。
「俺、沙耶って呼ぶようにするわ」「はは、わかった」