思い出話を楽しみにしてたのに、誰からも連絡がこなかった。
よんさまにメールをいれても、返事はなし。
少しだけ寂しいけど、忙しいのかな?疲れたのかな?…しょうがないか。
風邪は治ったよ、元気だよ、今度どこかに行くときは連れてってね。そう、言わなきゃ。
ものすごく久しぶりの学校のような気がした。
連休は意外と長くって、この間隔が少しだけどぎまぎする。
おはよって交わす友達たちの中に、今日はよんさまの姿が見えなかった。
クラスは違っても毎日会いに来てくれてたのに…、まーいっか。
「あ、みーちゃん」菜奈香ちゃんが窓を指さしながらあたしを呼んだ。
「あれみーちゃんの友達じゃない?」「ほんとだ」
外に向かって「いっちゃん!よんさまー」って叫んだら、二人ともあたしに手を振った。
(…あれ?)「みーちゃんの友達、付き合ってるの?」「…そーなの、かな?」
わざと明るい顔で返事をしてみせた。
(手を繋いで二人で登校かー。)黒いものがぐっと、のしかかる。どうしよう。泣きそう。
「みよ子!」一時間目が終わった時、教室につーくんが来た。
「どしたのー?」駆け寄るあたしの手を思いっきり引っ張って、廊下の端まで走らされた。
「…つーくん?」口を開いて、また閉じて。目を合わせて、逸らして。ああ、そっか。
「いっちゃんとよんさま、付き合ってるの?」「!」「朝、二人で登校してたよね」
「…見たんだ」「うん。つーくんも知ってるんだよね?」「まー、な」
「そっか、やっぱりそうだったんだ」「みよ子、」
「だから、よんさま恋の話とかあたしにしなかったんだー。
あたしがいっつもいっちゃんの事ばっかり言ってるから」
「みよ子」「言ってくれれば、よかったのに」「……」「いつから付き合ってるか、つーくん知ってる?」
「あの、海行った日から」「…そっか、それだもん、あたしだけ知らないよね」
あはは、って笑ったら、つーくんがあたしの事をぎゅってした。
耳元で、無理すんなよって苦しそうに、それだけ言って。無理してるのはつーくんじゃないの?
そう、言いたかったけど、涙がとまんなくって、言えなかった。
チャイムが響いた。教室に戻れるような気分じゃないあたしを、つーくんは外へ連れ出してくれた。
靴をはいて、つーくんに手をひかれて、学校から少しだけ遠い公園のブランコに乗った。
風にふかれて、頭がぼーっとする。もう、何もしたくない。
「大丈夫か?」「うん、ありがと」
つーくんのくれたオレンジジュースを、あたしは両手で握って、それだけ。
どう声をかけようかきっと迷っているだろうつーくんに向かってあたしは笑って見せた。
「大丈夫だよ」「無理すんな」「してないよ。ほんとに、大丈夫」「そ、か」
「…言って欲しかったなー」「……」「ごめんね、つーくん。うじうじして」
「ん。大丈夫」「こんな優しくしてくれなくてもいんだよ?」
「んだよそれ、優しくしたっていいだろ。だって俺、」
「ん?」「俺…」「?」「…俺、みよ子が好きだよ」「…え?」
「俺にしといたら、イチの事で泣くこともなくなるべ?」
少し言葉に詰まったあと、「ありがとう」
それだけ言うとつーくんはほんとに、心から笑ってた。