少しだけ嘘にも似たこの湿気が
あの切ない感覚と共に思い出すいつかの日の為に。




放課後、久々に4人で一緒に遊ぶことになった。 でもツトムも、みーちゃんもそれぞれ先生に用事があるとかなんとかで、 購買の前であたしといっちゃんは待つことになった。 購買の暖房はなんだか生ぬるいというか、しめった感じがする。 今日は雨だから余計にそう感じるのかもしれないんだけれど。


あたしが本を読んでいる間、いっちゃんは暇そうにプリンを眺めていた。 「食べたいの?」「うん。沙耶、おごってー」「お金ないもん。残念」 「じゃあ、今度ね」「…いっちゃんさ」「うん?」 「みーちゃんと、お昼休み何か話した?」「うん、話したよ。」 「…聞いちゃだめ?」「あはは、いいよ。何もないけど」 「ないの?」「うん。何も言われてないよ」「そっか。」 「でも沙耶は無事に言えたんでしょ?」「はい、おかげさまで。最初ツトム怒ってるから怖かったー」 「あはは。しかもなかなかいい結果らしいですね。」 「どうだろ?あたしはまだみーちゃんが好きだって念を押されたんだなあって感じ」 「でも、前進、じゃん」「ね、一時期はどうなるかと思ったよ」 「うん。ツトム怖いなあ」「あはは。」「沙耶」「ん?」「って呼ぶのやめた方が良い?」 「あー、どっちでもいいよ」「了解。じゃあ今後も沙耶で」「おっけ」 そうなんだあ、言えなかったんだ。でもみーちゃんのことだからそれなりの考えがあった上での、 結果なんだろうな。あたしも伝えられる良いきっかけになったし、 まだこれからいくらだってチャンスはあるんだろうな、とそう思った。 「いっちゃんは、どうなの?」「何がー?」「好きな人、いないの?」 「んー、沙耶かな」何を言うんだこの人は。 「…プリンは買わないよ?」「えーいいじゃん買ってよー」


何かを犠牲にしなければ何かは生まれないのかもしれない。 だけれど、できるだけ幸せになりたい。幸せになってもらいたい、とも思う。 そんなの、ここの暖房みたいに生ぬるい考えなのかもしれないのだけれど。 窓を見ると少し止み始めた雨。 なんとなく今のあたしたちに似ていると、あたしが思っていたら、 いっちゃんが同じこと言った。やわらかに幸福に似た気持ちになる。


そろそろツトムとみーちゃんが来るだろう。 時計の針は午後4時30分を回り、少しの空白と共にまた動き始めた。