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4月の夜はまだ肌寒い。
また君が倒れたりしないようにあたたかいものを何枚も何枚も重ねて、 自転車の後ろに乗せた。

「ここに、乗るの?」
「そう、初めて?」
「うん。わーやったー!」

変なの、と思いつつペダルを踏む。
踏みすぎてよろけてしまった、一時停止。
昨日抱き上げた時に知っていたはずの重さだけれど、 本当に軽い、消えてしまいそう。

「だいちゃん?」
「ああ、ごめん、つかまってね」
「うん」

腕が腰を纏う。そうか女の子が捕まるのは腰なのか! 男同士の捕まるは、サドルだったり、後ろの網目だから、うわー気合満タン! 踏み出すペダルにもう失敗はしない、踏みすぎないよう慎重に進む。 安全第一。まだ冷たい風の背中から声が聞こえた。

「だいちゃん!」
「はい?」
「ニケツってたのしいね!」

つい、声に出して笑ってしまうと、なんでーと疑問の声。 この人、かわいいなあ、


「さくら、お好きなスープはありますか?」
「クラムチャウダー!」
「了解、」

坂をのぼって、吹く風が心地よくなって、だけど きれそうな息は格好つかないから誤魔化して「到着」と笑ってみせた。


「え、でもクローズって」
「平気、おいで」



Last Love Letter




「こんばんは」
「あら大地、と?」
「さくら、です」
「いらっしゃい、寒かったでしょう」
「ジュンちゃん、クラムチャウダー二つ!
 上あがってるよー、持ってきてー」
「いいけど、気をつけなさいよ!」

とまどうさくらの手をひいて、階段とその先にある細いはしごをつたって、 向かう先は屋根の上。喫茶店スターライトの秘密基地。

「わー!すごい!屋根の上!」
「気をつけて」

街明かりに気を取られるさくらに僕が上を指差した。つられるさくらがため息をひとつもらした。 ほっと息をついているとジュンちゃんの声が届いて、受け取りにその場を離れた一瞬。 さっきまで笑っていたさくらの顔が涙で濡れていて、言葉に つまった。なんでだ。

「さ くら」
「うわー、いいにおい」
「泣いているの?」

聞かなくたってわかるのに、聞かなきゃわからない。
照れたように笑う、君の透明は頬を輝かせる。



「すごいね、空ってうつくしいね」
「うん」


うん、そうだね。
いいにおいのクラムチャウダーを手渡すとあたたかいことにも喜んで、 一口飲んでまたおいしいとうれしそうにした。 君の世界はどんな微かな出来事にだって感情を動かす。幸せだと笑う。


「わたしね、ずっと病院にいたんだけど」
「病院」
「いつも街明かりがきれいで、そこで笑う人たちが羨ましかったの。
 でも空を見上げればこんなにもきれいだったんだね。」
「うん。」
「教えてくれてありがとう」
「さくらは、病気なの?」
「どうして知っているの?」
「あれ、今病院って、」

あははと 宇宙に彼女の声が響く。

「わたしね、20歳までもたないって言われてたの」
「重い 病気なの?」
「よくわからない。
 その名前を知ってしまったら、それがわたしの名前になってしまいそうで嫌なの」
「そっか」
「あーあ、内緒にする予定だったのに、もうばらしちゃった」
「嘘つけないんだね」
「そうみたい。」
「病院出てきてよかったの?」
「うん、ママにお願いしたから平気」
「心配 してない?」
「大丈夫。ありがとう。」

じゃあ、と話を君は続ける。

「遠いところから来たのも嘘なの。  緑ヶ丘総合病院ってわかる?あの坂をずーっとのぼったところの」
「ああ、あそこなんだ」
「そう。本当はもっとどこか遠くへ行く予定だったんだけれど
 桜がきれいで、足がそれ以上進まなくって」
「そっか」


「こーんな重たい話は秘密にして、静かにこっそりいなくなろうと思ってたんだけれど」
「ううん、…知らないでいなくて良かった」
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい。
 でもね、もうお医者さんが言っていた年月よりも二年も長く生きているの。
 ずーっと、ずーっと20歳までって聞かされていたのに!」
「すごいね さくら」
「でしょう?
 だからね、もう何でもできる気がするの。何にだってなれる気がするの」
「はは、そうかも」
「だいちゃん」
「ん?」
「こんなすてきな場所につれてきてくれてありがとう」

あんまりきれいに笑うから、うんと頷いてクラムチャウダーと一緒に飲み干した。
その先で世界も満足そうに笑っていた。