変な家庭だな、とは自分でも思う。 地下鉄で母ちゃんの家にむかう度、そう思う。 毎週金曜日、部活終わりの学校帰りに母ちゃんの家でご飯を食べる。 小さな頃からの習慣、当たり前なこと。 俺は父ちゃんと暮らしてて、母ちゃんとはバラバラで、苗字も違う。 父ちゃんと母ちゃんは連絡は取り合ってるらしいけど、 詳しいことは知らない。 俺が成人したら教えてくれるみたいだし、それまで待てばいいかな。 小さい頃はそりゃすごい気になってたし、父ちゃんにも母ちゃんにも何回も聞いた。 「ケンカしたの?」とか「父ちゃん浮気したの?」とか、 聞いても聞いても「そうじゃないよ」って笑うから、 じゃあなんでだ、もしかして、「おれのこと嫌いになったの?」ってそう1回だけ聞いたことある。 そしたら母ちゃん馬鹿みたいに泣くから、ごめんねごめんねって謝るから、 もう何も聞けなくなった。 もちろん、母ちゃんにもっと会いたいなと思うこともあったけど、 父ちゃんも好きだから、一応育ててくれてんのは父ちゃんだから、 子供なりに気をつかってそれ以上は求めなかった。 まあ別にいっかな、そんな感じ。

いつも通りに母ちゃんの家でご飯食べたのは昨日、忘れ物をした。サッカーシューズ。 帰ってから気づいて、明日部活休みだし、明日取りに行けばいいや。 ついでにご飯も食べてこーと考えついたのです。 母ちゃん明日は親子丼にしようとか言ってたし。俺親子丼好きだし。
そんなわけで今日、金曜以外に会うのは本当に初めて。 まあきっと家にいるだろうと思ってアポ無し訪問、人差し指でボタンを押すと ピンポーンといつも通りの音。あ、いいにおい。やっぱ親子丼だな、これは。 そう考えてたら、ドタバタ、駆け足の音が聞こえる。母ちゃん何焦ってんだろ?

「はーい」

その声のあと、出てきたのは女の、子。おれと同い年くらい?

「あれ、大家さんですか?」
「いや、違います」

誰だろ、俺もしかして家間違った?でも見慣れた風景、間違えるわけないんだ、昨日も来てるし。
「おかーさん、大家さんじゃないよー」とその人は言う。きっと奥にいる母ちゃんを呼んだのだろう。 この人随分我が物顔でここにいるなあ、俺この家の人の息子なんだけどなあ。 それにしてもこの顔、どっかで見たことある。この女の人の顔、誰かに似てる。
「ごめんなさいねえ」とエプロンで手を拭きながら母ちゃんが顔を出す。俺に気づく。

「あら、北斗じゃない」
「あ、母ちゃん」
「靴取りに来たの?」
「うん」
「今日親子丼よ、食べていけば?」
「あ、そのつもり なんだけど」

俺が「母ちゃん」と呼んだあたりから、その女は俺のことを随分不思議そうな顔で見ていた。 目が、ばっちり合った。そしてまるで同じタイミングで口が開く。

「お母さん、この人だれ?」
「母ちゃん、この人だれ?」