「あ、そうそうあなたたち双子よ」

そう母ちゃんが言ったのも驚かなかった。 さっき歳と誕生日確認したし、七星サンに。 あ、やっぱ母ちゃんの親子丼うめー、来て正解。…たぶん、ほんと来て正解だと思う。 ちらっと覗き込むとどうやら七星サンも聞きたいことが沢山ありそうな顔をしている。 でも母ちゃんの開口を待ってる、俺とおんなじだ。

「謝りはしないことに、謝ろうかな。ごめんね北斗、七星。」
「どういうこと?」
「決めたことだから、すごく悩んで決めたことだから。」
「母ちゃん、成人したら教えてくれるって言ってたやつ、これ?」
「あ、それわたしもそう。成人したらなんで今こういう生活なのか教えてくれるって」
「二人ともよく覚えてるわね」
「そりゃ、ずっと気になってたから。」
「もしかしてわたしたち父親違いの双子とか?」
「七星ってば、それはドラマの見過ぎよ。ちゃんとわたしと晃さんとの子ども」

「コウさん?」

「そう、本当のお父さん」

「本当のお父さん?」

俺らは二度も声をハモらせて、目を合わせる。 何もかもにびっくりだ。 声がハモったこともそりゃ驚いたけど、本当の父さん?晃さん?誰だ、それ。 俺の父ちゃんはユーゴっていう名前なんだけど、

「あなたがたが生まれる前に死んじゃったの、飛行機で」

母ちゃんは親子丼を食べる手を止めずに、なんにも変わらずに話し続けるから ちっとも信じられなかった。 嘘をついているんだと思った。 もしかしたら七星サンと一緒に俺を騙くらかしているのかもしれない、 と一瞬思ったけれどやっぱり七星サンの顔を見るとそんな仮説はすぐさま否定される。 こんな似た顔、母ちゃんが産む以外どうやって見つけれるんだ。 世界に似た人は3人いるらしいけどそうじゃないんだ。 おれはわかる、証拠も確信もないんだけど、なんとなくわかる。

「お母さん、それほんとに?悲しくないの?」
「悲しいわよーすごくね、悲しすぎて死んじゃうかと思った。」
「じゃあ今の父ちゃんは誰?俺の父ちゃんユーゴっていうんだけど、」
「知ってるわよ、ふふ 何言ってるの。」
「じゃあ」
「北斗のお父さんのユーゴも、七星のお父さんのシンジも、
 お母さんの古くからの親友、命の恩人」
「恩人?」
「晃さんがいなくなって死にそうなわたしと、
 お腹の中にいたあなたがたを幸せにしてくれてる、恩人」
「そうだったんだ、わたしお父さんと血つながってないんだ」
「…、そんなに気づかなかったのね」
「お母さん、なに驚いてるの」
「すごく嬉しいなって」
「嬉しいって?」
「あなたがたが義父だということを気づかないくらい、愛に囲まれて生きているということ」

母ちゃんがそう言ったとき、俺は不覚にも少し泣きそうになった。 母ちゃんの笑顔に、とんでもない大きさの愛と、強さを見た気がした。 咳払いをしてご飯をかきこむ。出かけた涙をひっこめた。


「わたしの名前 葉子の母音をとって、北斗。
 晃さんの日を取って七星、二人合わせて北斗七星。
 晃さんがどこにいてもあなた方を見失わないように、この名前にしたの」
「そうだったんだー、知らなかった。
 小学生の時にあった名前の由来の宿題の時、お母さん違うこと言ってなかった?」
「七つの星ですごくラッキーなことがありますように、って?」
「俺には北の寒さにも負けないように、みたいなこと言ってたよね、」
「だって、本当のこと言ったら、ねえ?」
「母ちゃん、ひどすぎ」
「でも、良い名前だね、うん」
「名前は親があげられる最初の愛だから、お父さんの愛もちゃんと届くように、ね」
「父ちゃん、の墓行きたい」
「あ、わたしも」
「今度、行きましょう。今日はもう遅いわ。」

そう言ったあと、母ちゃんは空を見上げた。 天井を突き抜けて、母ちゃんは空を見ていた。
「空を見上げればいいの、晃さんちゃんと見てるわよ、北斗と七星のこと。」