お母さんに「泊まっていかないの?」と聞かれたけれど、私は首をぶんぶんと横に振った。 それは北斗さんも同じで「明日も部活があるから」と言っていた。 午後9時、「じゃあね、」と言って二人一緒に外に出る。 気まずくて嫌だなあーどうしよーと思っていたけれど、嫌だなんて言い出せるわけなくって、 はあと白いため息。今日は寒い、マフラーに顔をうずくめる。 ちらっと横を覗くと北斗さんは空を仰いでいた。 私もつられて空を仰ぐ。 「七星…サン?」 「はい、」 「北斗七星って、どれ?」 ぷっと吹いてしまった。それを知ってて空を見ていたわけじゃないのね、 私は高く高く指で星をなぞって北斗さんを導く。 「あそこにひしゃくみたいなのがありますよね?」 「ひしゃく?」 「なんかおたまみたいなやつ」 「あ、あれ?」 「うん、多分それ。」 「へー、よく知ってるね」 「小学校の理科で習ったはず、です」 「おれサッカーしかやってこなかったんだもん」 「あ、部活ってサッカーなの?どこ高ですか?」 「日立高校」 「タチ高ってサッカーすごい強いとこですよね」 「よく知ってますね」 「わたしの友達の彼氏がそこだって。丸井くんって言うんだけど」 「あー、丸井!…の彼女ってことは七星サン東女子高校?」 「そうです」 「ちょうお嬢様学校じゃん。やばー、だから北斗七星も知ってるんだね」 「それは小学校の時だってば」 「今度勉強教えてくださいー!ガシ女だったけ英語得意?」 「まあ、それなりには。」 「おれ英語が一番苦手、来週からテスト期間にはいるんで教えてください」 「いいですけど…」 「めんどくせーって思ったしょ?」 「ちょっぴり」 「七星サン苦手教科ないの?」 「…たいいく」 「おれ一番体育得意!今何やってるの?」 「バレーだけど」 「よかろう。教えてさしあげよう」 「あ、それから」と北斗さんは付け足した。 「北斗でいいよ。」 「あ、うん。わたしも七星でいいですよ」 「敬語じゃなくていいよ」 「あ、えっとー、わかった。うん。」 「アドレス教えて」 「赤外線でいい?」 「いいよ、じゃあ受信しまーす」 「はーい」 「じゃあ次送信しまーす」 「はーい」 光るケータイの画面。「木下北斗 登録しますか?」の質問にわたしは「はい」のボタンを押した。 きのしたほくと、ふと見上げるとやっぱりそっくりな顔。だけど今まで育ってきた道も、 苗字も学校も違う。変な感じ、この人と同じお腹の中にいただなんて。 「おれさ、今まで父ちゃんと血繋がってないなんて思わなかった」 「うん、だってわたしたち凄くお母さん似だもんね」 「小さい頃、お前んち母ちゃんいないのかよって言われたことはあったけど 誰も父ちゃんと血繋がってないだろなんて言われなかったな」 「わたしもそう、お父さんと血繋がって無いだなんてまだ信じられない。 …晃さんってどんな人なんだろうね」 二人でもう一回空を見上げる。今度はもう迷わない、真っ直ぐに天高く。 「母ちゃんさ、すっげー強いよな」 「きっと周りからも 育児放棄 とか色々言われたよね。」 「あ、だよね。母ちゃんも色々言われたよね、きっと」 駅に着くと、ちょうどバスが着くところでわたしは慌てて列に並ぶ。 北斗は「じゃあ」と言ってわたしに手を振った。わたしも軽く手をあげてそれに答える。 寒い寒い土曜日、窓に寄っかかって今日一日の事を思い出す。 そういえば、と思い出してアドレス帳の木下北斗を探す。 開くと住所から誕生日、血液型まで書いてあって可笑しかった。 まめなんですね、北斗さん。 |