おはぎをみんなで食べたのだけれど、 なんとなくそこに俺がいるのは違うような気がして 一人外に出てしまった。 七星ちゃんは少し驚いたような顔をしていたけど、 いつものことだとわかっているみんなが「七星ちゃんのせいじゃないから、 大丈夫だよ」とフォローをいれてくれる声が部屋を出た背中に聞こえてきた。 ナイス我が兄弟。


空気の冷たさと比例するように澄んだ空。 はあ、とひとつ息をすると白くにごる。 この冷たさがどうにも好きだ。

「星、好きなの?」

声に驚いて振り向くと七星ちゃんがいた。

「………」
「驚かせちゃった、かな?」
「びっくりしました」
「ゆうたくん、だよね」
「はい」
「優しい歌。」
「よくご存知で」
「さっきおばあちゃんに教えてもらったの」

「はー……、すごい空だね」

七星ちゃんの息も白く濁る。同じ冷たさの中にいる。

「初めて見たの?」
「うん、こんな田舎に来たの初め…てってごめんなさい」
「あはは! 七星ちゃん言うねー。」
「ごめんなさい、そんなつもりじゃ…、」
「いいよ、ここはなんもないとこが自慢だから。いい空でしょ?」
「うん、すごいね。すごいきれい。」


「なんで外、出てきたの?」
「みんなに行っておいでって言われたの。」
「え?」
「優歌くんが部屋から出て行っちゃったの、わたしのせいかなって
 そう言ったらみんな いつものことだよ って言ってくれたんだけど
 それでも、なんか気になっちゃってたら
 すみれさんが 行っといでって言ってくれて。星きれいだよって。」
「そっか」
「寒くない?」
「寒いなら先戻っていいよ、」
「わたしは平気。平気?」
「慣れてるから、」
「そうなんだ、」

「なんで、泣いたの?」
「え?」
「いやごめん、嫌だったらいいんだ」
「…わたしみんなに嫌われてると思ったの」
「なんで?」
「だってお父さん全然連絡とってなかったみたいだし、
 血つながってないんだよ、みんなと。他人じゃない」
「ほう、」
「だから、覚悟してきたの。失礼な言い方かもしれないけれど
 修一さんに怒られるのは想定の範囲内だったの」
「へー、すごいね。びびんなかった? 俺らみんなびびってたよ」
「ふふふ、びっくりはしたけど ね。」
「じゃあなんで?」
「おじいちゃんが、あんな優しく受け止めてくれてたなんて、
 あんな風にわたしの存在を許してくれるなんて思ってなくって、」
「そっか、」
「うん。」

嬉しそうに笑う七星ちゃんの鼻が、赤くなってる。 家の中に入れてあげるべきなんだろうけど、今は まだ もう少し。

「優歌くんって名前、誰がつけたの?」
「母ちゃん。女の名前は父ちゃんで、男の名前は母ちゃんがつけた」
「へー、そうなんだ」
「七星ちゃんは、北斗七星から?」
「、そう!よくわかったね。もう一人が北斗。」
「…もう一人?」
「あれ、言ってなかったっけ? わたし双子なの」
「北斗くん、はなんで今日来てないの?」
「北斗はさっきおじいちゃんが言ってた木下さんに育てられたの。
 生き別れの兄弟っていうやつ」
「…ドラマみたいだね」
「ね、すごいよね。わたしもつい最近知ったの。北斗のこと」
「びっくりしなかった?」
「すごく驚いたよー、最初見た時に 誰かに似てるな って、
 わたしだ、って気づくまでに時間かかっちゃったもん」
「ははは! それすごいね、いつ知ったの?」
「一週間前」
「うそでしょ!」
「本当。ふふふ。このちょっとの間に怒涛の現実と向き合いました。」
「すごいね、」
「でもまだついていけてないよ。今も夢かもしれないって思ってる。」
「どうだった?」
「…なにが?」
「この現実は。七星ちゃんにとって。」
「驚きばかりですが」
「ですが?」
「とても素敵です。」

七星ちゃんは得意げにそう笑った。