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「この街、案内してよ」

そう七星ちゃんが言うから、一度中へ入って 上着をとって、サンダルからスニーカーへ変える。 もう寝る時間のかすみがついてこないように、 静かに始まる夜の散歩。


「優歌くんって」
「はい」
「高一、だよね。」
「うん。」
「じゃあタメだ」
「よろしく。」
「はい、こちらこそ。
 そして七星ちゃんどこへ行きましょう?」
「今どこに向かってるの?」
「とりあえずコンビニへ」
「ふふ、そうだったんだ。」
「コンビニくらいしか中はいれるところないよ、寒くない?」
「それは平気、ありがとう」
「あ、そこ…」


「…段差あるから気をつけてね」

そう言いかけた瞬間「きゃ」と小さな悲鳴が聞こえた。 仕方がないから言いながら手を伸ばす。 おしい、あと一歩遅かったみたいだ。
つかまれた手は、思ったよりもずいぶん強く引いてしまったようで 七星ちゃんの香りが鼻をかすめた。 華奢な体、簡単に放り投げられそうだ。

「ごめんなさい、ありがとう」
「いいえ、平気?」
「うん」
「派手に転んだねえ」
「優歌くん言うのあと一歩遅いよ」
「そうね、失礼しました。」
「ふふふ」
「あ、良い事思いついた」
「ん?」
「俺の通った小学校行こう、
 そして帰りコンビニで何か買って帰ろう」
「さんせー!」


七星ちゃんがつまづいた橋を渡って、 坂道をのぼって左にまがる、そこから後はまっすぐ、まっすぐ。 そうしたら学校が見えてくる。 あと、もう少し。

「この街の何を知りたいのですか?」
「お父さんのこと知れるかなって思って。」
「なるほど。」
「優歌くん、お父さんと初めて会ったんだよね?」
「うん、車来た時こんな夜に誰かと思った。」
「だよね、」


「あ、ここ?」
「そう」
「え、プールが屋外!
 うわー、外にピアノがある!!」
「そうなんだよね」
「なんで外にピアノあるの?」
「こないだ新しいピアノが来たから
 このピアノは外用になったみたい。」
「外で弾くの?」
「たまにね。近所のじじばば呼んで
 小中学生みんなで合唱して歌聴いてもらうんだ」
「素敵!」
「ね、うちのばあちゃんも毎回喜んで帰ってくる」

「…ピアノ、弾いても良い?」
「もちろん。弾けるの?」
「ちょっとだけね。優歌くんも弾けるでしょ?」
「え、何で知ってるの」
「ごめん、なんとなく。
 指が細長くてきれいだから言ってみた。
 あとおうちにもピアノあったし。」
「うちの兄弟みんな弾けるよ、一応。
 って言っても俺も拓人も野球メインになっちゃって
 もう全然弾けなくなっちゃったけど。」


「もったいない」と口を尖らせながら ポーンと音を鳴らす。「外って変な感じ」嬉しそうにそう話す。


「なんか弾いてよ」
「いいですよー、何がいい?」
「何弾けるの?」
「何でも弾けますよ」
「…じゃあ、おまかせで」
「はーい、まずはジブリメドレー。」


そう言って彼女はディズニーやらクラッシックやら 童謡やら、言葉通り何でも弾いた。 すみれ姉ちゃんのことうまいと思ってたけど比べ物にならない。別格。 指が、鍵盤の上で踊ってるみたいだ。 俺が感嘆をひとつこぼす度に、七星ちゃんも笑うから 楽しくなって最後は2人で大合唱。旅立ちの日に。 細くか弱い腕からこんな力強くてかっこいいメロディが流れるなんて、 想像もしていなかった。 うまい理由を尋ねると「夢なの、」と照れくさそうにただ一言そう言った。


「楽しそうに聞いてくれるから私まで楽しくなっちゃった」
「すげー楽しかった!」
「優歌くん子供みたいだった」
「なんかそれ恥ずかしい」
「そっかな?私はとても嬉しかったです。
 ご静聴ありがとうございました。」


コンビニで買った肉まんを食べながら帰り道。 警察も、近所の人から苦情もこないなんていいねと、 彼女はまた田舎を強調した。 彼女のピアノに免じて今回はその田舎扱いを許そう。 心の中でそう誓った。