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朝目が覚めると、目覚まし時計もケータイのアラームも全部止まっていた。 4つもかけているのに。なんてこった。 ごめん、しょっち。寝坊しました。

適当に準備をすませて、いつもよりダルめな病院までの道のりをあくび混じりにこぎ、 病室へ行くとそこにしょっちはいなかった。 …あー、リハビリの時間かあ。 そういえば昨日メールでそんなようなこと言っていた気がする。 どうしようかなあー。んー、眠い。 でもこの静かな病室にわたし一人、勝手に寝れる雰囲気では…ないなあ。ふう、喉かわいた。






2階まで降りて売店で林檎ジュースを買うと、 麦わら帽子をかぶった女の子がいた。病院内なのに。
少女はわたしより少し先にエレベーターに乗り、「開」を押したまま待っていてくれた。 わたしは小走りで同じエレベーターに乗り込み、ドアが閉まるのを見つめた。 そして少女は10階のボタンを押した後、わたしに「何階ですか?」と尋ねた。優しい笑顔。


「どうして、麦わら帽子をかぶってるの?」


質問に質問で返すのは失礼だったけれど、その子の微笑み方が本当にキレイだったから、尋ねてみたくなった。 少女は、またキレイな笑顔で答える。

「日に焼けるから」
「病院内に、紫外線はあるの?」
「あるよ、ただ1カ所だけ。教えてあげよーか?」
「連れて行ってくれるの?」
「いいよ、でもお姉さんお見舞いか何かじゃないの?」
「今、その人リハビリ中で。暇だったの」
「あー、そっか。そういうこともあるよね。じゃあ、一緒に行こう」


キレイな栗色の長い髪、華奢なライン、大きな瞳。 わたしよりも幼いけれど、大人っぽい。 そんな彼女は透き通る声で言う。

「あたし、川村さくら。お姉さんは?」
「わたしは小川希美。」
「のぞみさんも苗字に"川"ってつくんだね」
「川同盟だね」
「ふふ、のぞみさん素敵」


素敵だなんて言われたのは初めてで、どうしていいかわからずにいると、 彼女はまた「ふふ、」と笑った。川村さくら。さくらちゃん。 こんなに名前と身体が一致する人は初めてだった。 流れるようにキレイで、でもどこか儚くて痛い、そんな子。
わたしは、この子になりたい。 そんな衝動にかられた。







迷路のような道を、さくらちゃんはすいすい前へ進み、着いた先は彼女いわく、プチ屋上。 すごく小さかったけれど、街がよく見える広い景色。 ミニカーのような車が行き交う道路、高く広がる空。少しだけ、泣きたくなった。


「さくらちゃん、よく知ってるね、こんなとこ」
「病院暮らし長いから、自然と覚えちゃうよ」
「この病院、ほんと造り複雑だよね」
「そう!昔はよく迷子になってたもん」

触れていいのかどうか迷ってる間に、彼女はわたしの思考を読み取ったのか、 何ともなく、言う。

「あたし、病気なの。20歳までもたないって言われてます!」
「そう 、なんだ…?」
「でも全然元気。気にしないで。ありがとう、のぞみさん」
「ううん。 なんの、病気…なの?」
「わかんない。聞かないことにしてるの。聞いたら怖くなっちゃう気がして。ふふ」
「そうなんだ…」
「もー、のぞみさんへこみすぎだよ。あたしは平気。だって生きてるもん」
「さくらちゃん、強いね」
「そうかなー? 夢、あるから…かなあ?」
「夢? どんな?」

さくらちゃんは「内緒だよ? あ、笑っちゃダメだよ?」と上目遣いにかわいく言ったあと、 深呼吸をして、それから高く 空を見上げる。

「いつか、運命の人と出会う旅にでるの」
「…へー!すごくいいね、それ。」
「20歳で死んじゃう気がしないし、まだ10年近くあるから、頑張ってみます!」
「さくらちゃん、どんな人がタイプなの?」
「んー、強い人 かなあ。力じゃなくて、精神的に。」
「…なんかすごい大人な考えだね」
「あはは、そうかなあ? のぞみさんは、どんな人がタイプなの?」
「わたし? …んー、」


友達とのいつもの会話なら、イケメンでお金持ちでやさしくて…、 たくさんたくさん出てくるのに、さくらちゃんの前だと簡単なことが言えない。 言ってしまったらきっと一生後悔する。そんな気がした。
一生懸命な人? 歌の上手な人? ううん、うまく当てはまらない。


「うんと…笑える人、かなあ?」
「それは のぞみさんを笑わせれる人ってこと?」
「ううん、そうじゃなくて。つらいときに笑ってれる人かなあって」
「ふふ。そういう人、すてき。でも、少し寂しくない?」
「どうして?」
「弱い部分、見せて欲しいなって」


少し、しょっちの顔が浮かんだ。


「そう…かなあ?」
「あたしは、そうかもしれないなって思っただけなんだけどね」
「さくらちゃん、しっかりしてるね」
「あはは、よく言われまーす!」







「そろそろリハビリの終わる時間だから、わたしは行くね」と別れを告げると、 さくらちゃんはあのキレイな笑顔を見せた。「また、おしゃべりしようね」と小指を結んだ。

しょっちの病室へ行くと、リハビリを終えたのだろうしょっちは、すやすやと眠りについていた。 挨拶も何も出来なかったけれど、いっか。帰ってやらなきゃいけないことあるし。 起こさないように静かにいつもの場所に洗濯物を置いてゆく。 今日持って帰らなきゃいけないものはわからないから、明日でいいや。
キレイな寝顔を背に、わたしは音を立てないようにドアをしめた。いい夢、みてね。