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しょっちへのお見舞い期間の7日が終わってから、もうしばらくが経つ。 夏休みはあっという間であと少しで終わるらしい。 宿題はだいたい終わった。あとは国語のみ。
しょっちのお母さんからもらったのは、 小さな飾りがこまごまと付いたブレスレットだった。 ちょっとしたブランドものじゃないと、ありがとうなんて言わない!なんて心に決めていたのに、 あんまりのブレスレットのかわいさにどうでもよくなってしまった。 さすがしょっちのお母さんだなあ。センスいい。 例えこれが100円だとしても、全然おっけー。







お土産を左手首につけてコンビニへ行くと、ルカさんがいた。「あ、のんちゃん」と声をかけてくれた。

「久しぶりー!」
「久しぶりだねっ」
「のんちゃん何やってるの?」
「暑いからアイス食べたくて」
「じゃあ、今暇?」
「暇…だけど」
「しょっちのとこ行こうー」

暇と言ってしまった手前、断る理由がなくなってしまった。 行きます、と言えずにいると「アイスおごってあげるよ」と言われた。行くしかないっすねー。
がりがりくんを2本買って、ルカさんの車に乗り込んだ。

「ルカさんの車に乗るの初めて」
「うっそ、ほんとに?」
「だってルカさんいっつも忙しいじゃん」
「あはは。ごめんごめん。今度一緒に遊びにいこう」

そう笑う顔がしょっちに似てた。 顔は似ていないのに、笑い方は一緒。 それにしてもルカさん本当に美人だなー。 羨ましい。細いしきれいだし。いいなあ。
じっと見ていると「ん? どうかした?」と気づかれた。見過ぎた。 「なんでもないでーす」と窓に目を移すと、見慣れたいた景色。 車は早送りでわたしにこの世界を届ける。 毎日汗かいてたなー。痩せなかったなー。くそう。







車をおりると、ルカさんは「じゃあ、あたし帰るからー」とさらっと言った。

「一緒に行くんじゃないの?」
「だってこれからデートだもん。ふふ」
「…なるほど。」
「しょっちによろしくね」
「あ、アイスありがとうございました!」
「いーえ。どういたしまして。じゃあね」

軽く手を振って、去ってしまった。ああ、予想外の展開。なんてこった。 深呼吸をしてしょっちの病室へ向かおうとしたら、自動ドアが開いた。松井さんにだった。…なんてこった。 目ががっつりあったので、どうしようと思っていると、むこうから挨拶をしてくれた。


「どーも」

軽やかに笑顔で言われて、焦る。ううう。

「こ んにちわ」
「章一くんのお見舞い?」
「はい」
「…小川さん、章一君のなに?」

こわっ!女の目!

「幼なじみ、だけど」
「じゃあ、章一くんの好きな子知ってる?」

あー、そういえばしょっち無難な断り方したって言ってたな。ここは普通に答えます、か。

「知らないよ」
「うそだ」
「えっ…。ほんとに」
「そーなんだ。ごめんね変なこと聞いて」
「しょっちのこと好きなの?」

知っているのに尋ねるわたしはずるい。 彼女は嫌な顔せずに笑う。「そうだよ」と。 それがなぜかすごく嫌で、訊いたのはわたしなのに「ふーん」なんて嫌な女。 「じゃあ」と言って彼女が背を向けたのでわたしも負けずにしょっちの部屋へと急ぐ。 あーあ。がりがりくん、溶けちゃったかな。







ノックをする久しぶりの扉。 だけど聞こえるのはいつものしょっちの声。

「どうぞー」
「どうもー」
「…のぞみ!?」

えらく、驚かれた。

「そんな驚く?」
「だって姉ちゃんだと思ってたし。メールくらいしろよー」
「さっき決まったし。」
「もしかして姉ちゃんに誘われたとか?」
「うん、コンビニでばったり会ったの」
「うわー、林ルカめ…」
「そんな嫌がることないじゃん」

わたしがふてり気味にいうとしょっちは「びっくりしたんだって」と笑った。

「がりがりくん買ってきたよ。もも味。」
「やったー!何個?」
「わたしとしょっちと一個ずつ」
「じゃあ練乳アイス何個でも食べていいから、のぞみのがりがりくん頂戴」
「…いいけど」
「よっしゃー!」
「出た、もも好き」
「いいじゃん、ももうまいんだぜ」
「練乳アイスはどうしたの?」
「お土産」
「松井さんから?」
「なんで知ってるの? こわっ」
「さっき会ったもん」
「また会ったの?」
「そう!しかも今回しゃべったから」
「うわ、うけるー」
「うけるとか言わない」


しょっちは少し溶けたがりがりくんを食べて、もう一袋はわたしが冷凍庫に入れた。 そのついでに練乳アイスをもらった。練乳アイス久しぶり。 袋を開けるのと同時に、しょっちが口を開く。

「久しぶりだな」
「練乳アイスが?」
「いや、練乳アイスもそうだけど、会うのが。」

普通そっちか。つい、練乳アイスのことばかり考えていたから。 きっとそんなこと言うとバカにするんだろうなー。 だから、絶対言わない。

「そだね、元気だった?」
「まあなー。ずっと暇だった」
「あはは、そうなの?寂しかった?」
「なんか孤独だった」
「個室だしね」
「無人島、みたいだった」
「…無人島?」
「一人で色々考える時間が増えた。まあ、ちょうどよかったのかもなー」
「ちょうどいいって、何が?」
「バスケ部部長として?」
「部長と、して?」
「俺部長になってからすぐ怪我したじゃん」
「そうだね」
「なのに後輩とかみんな俺のこと部長って呼ぶの。」
「だってしょっち部長じゃん」
「でも俺部長らしいこと何もしてないじゃん」

ははは、と軽く笑う。 一人になると不安に覆われるのかな? しょっちがこんなネガティブになったこと、あったっけ…? わたしは何も言えずに、アイスをかじる。 しょっちは今のことなんかなかったみたいに、「そいえばさ、」なんて、もう違う話をしている。 なのにわたしはまだ、必死にしょっちにかける言葉を探してる。
あ、雨の日。しょっちがわたしに見せた数少ない弱音を吐いた日。 あの日わたしは彼に何を言えたっけ。何も言えなかったっけ。 不安な顔をしているしょっちに、優しい言葉を かけたい。脳内を巡らす。


「大丈夫、だよ」


口から出たのはありきたりな一言。 前もこれ言ったかも。最悪。
金曜日の番組について話していたしょっちは、それを遮られて、その上大丈夫だなんて言われて、戸惑ってる。 だからもう、勢いに任せる。早口になる。


「わたし、知ってるつもりだよ?しょっちが頑張ってたこと。
 ほんと一部しか知らないけど、それでも、わかる。しょっちが部長に選ばれた理由。
 本当はやめちゃえば楽になるって言えたらいいんだろうけど
 しょっちがしてきたバスケ、また見たいよ。
 すぐ走れるようになる、またすぐボールがあのわっかにすぽすぽ入るようになる。
 わたしが、断言する!」


そう言い切って、恥ずかしくなった。なんだか急に泣きたくなった。 こんなことしか言えなくてごめんね。ごめんね、しょっち。 「帰るね、アイスごちそうさま」 そう言って立ち上がって背を向けると、しょっちに「のぞみ!」と呼び止められる。

「ありがとう。」

あんな陳腐な言葉しか言えなかったのに、ありがとうなんて言わなくていいよ。
喉が引っ張られて、声がでない。小さく首を横に振る。しょっちは言葉を続ける


「俺さ、のぞみ好きだわ」
「………え、あ、どうも。」
「幼なじみとして、それから人間として、女の人として。好きだよ、のぞみ」

「俺と付き合って欲しい…です」


思考停止。今、しょっち何て言ったの? 付き合うって…?え、なにが、誰とだれが? わたしとしょっちが? 口を開けたまま、立ちつくしてると、しょっちは「アホ面」と笑った。 うるさいなあ、もう。いきなり言っておいて。アホ面にもなります。
「返事は今じゃなくていいから」の言葉に「う うん」と頷いて 病室を出た。心臓が、どきどきする。 なんでしょっちは平然な顔をしてるの? それになにこのパターン、やめてよー!花嫁発言といい、今日といい。
しょっちがわたしにした好きの言葉が離れない。 わたしの気持ちは?わたしはしょっちのこと、どう思ってたっけ? とりあえずお父さんに迎えに来て、と電話をした。声が震えていたのが自分でもわかった。 あーもう!今日寝れなさそう。答えを、探さなきゃ。しょっちのこと。わたしのこと。