未来予想図はその手で描く
何をしていても、どこにいても必ず先生の顔がうかぶ。
どんな雑音のなかでも先生の声だけははっきり聞こえる。
これって重症?
先生の名前は原田綱吉。つなよし、渋い。
28歳と若めの先生で、顔はフナちゃんいわく不細工だ。
失礼だなあ。私からみたらきらきらしているのに。
美術部に入ろうか、茶道部に入ろうか悩んでいた時に
決めるきっかけをつくってくれたのは先生だった。
見学の時に「悩んでるんですよね」と言うと
「美術部には井上がいる。俺もいる。絶対美術部の方が得だ」
という少し変わった誘い文句に心打たれて、美術部に入部した。
(井上先輩は私から見ても、フナちゃんから見てもかっこいい。アイドルだ)
絵を描くのは楽しい。
特に油絵が好き。好きな色を好きなだけ使って、
決まりもなくただ、塗る、かく、えがく。
でも恋は楽しくない。
もっと楽しいと思っていたのに。苦しくて切ないばかりだ。
先生は私のためだけに笑うことは絶対ない。
どんないい絵を描いても、どんな顔で笑っても、
先生が私を好きになる事なんて ない。
それをどれだけわかっていたって、
どうしても好きという気持ちだけはぬぐいきれなくて、
先生が好きだと言う本を借りるたびに、
私は泣きそうになる。どうしてこんなに好きなんだろう、って。
なんで私は先生じゃないとだめなんだろうって。
先生にお昼の放送で呼び出されて、パンを口いっぱいに含みながら職員室へ向かった。
先生は一枚の、きれいな人がうつっている写真を私にわたした。
「横峰なら描ける」とだけ言って。
「どんな風に、ですか?」
「横峰に任せるよ」
「…どうなっても知らないですよ?」
「どうなっても大丈夫だ」
自信満々に言う先生の笑顔はやっぱり素敵だなあと思った。
でも、多分、もう終わりにできる。
写真をもらったときにそんな気がした。
これを書き終わったら、終わりにはできなくとも、何かは変えられる。
放課後、5階までの階段を一気に駆け上がった。
息が弾む。鞄を投げ捨てて、道具を全部用意して、最初に赤、緑、黄色。
それから白を沢山だして茶色も入れる。
夢中で描いた。
髪が長くて、白い肌の女の人。綺麗な人で優しく笑っている。
でも壊れそうだと思った。
そう思ったら青を出していて、一気に色が重くなってしまった。
これでいい、かな? うん、大丈夫。
4時過ぎに描き始めて、気づいたら8時をまわろうとしていた。
「…っ、おわったー」
誰もいないのに気づいたら一人で吐き出すように大きな声で言っていた。
脱力、でも充実感。
汚れた手もそのまま、ブレザーを着て、電気を消した。
廊下の光によって照らされた髪の長い女性は、にこりと優しく微笑んでいた。
先生、
「ばいばい」
わたしも、きっとあの女性と同じ顔で微笑んで、美術室の鍵を閉めている。