ラ・ブリッチ



           僕は帚星
           コンタクトを探してください
           ちゅうしん オブ せかい
           鼻歌は風に吹かれる
           雨の日はいつだって晴れの日

HNWで勢いのみで書いたお話達。 そのせいかいつもよりばかっぽい。夜中のテンション。
少し変更や訂正をしています。それから、メニュー(上)は時間軸順でタイトルが並んでいますが
そのままスクロールしていただけると書いた順番になっています。あんまり変わんないけどね!





















































ちゅうしん オブ せかい



「きょーちん」
「どうした」
「どうして由香里は女で、きょーちんは男なの?」
「んー、遺伝子があーなって、こーなったからじゃない」
「神様っていると思う?」
「由香里は?」
「わかんない。だからきょーちんに答えを求めたの」
「ふーん。俺もわかんねーや」

どうして今俺らが2人で橋の上にいるかというと、昨日の昼休みに話はさかのぼる。今までまるで接点のなかった由香里が、突然教室の俺の机前に突っ立って「由香里の恋人になってよ」と言った。告白よりも、脅迫に近いものがあった気がする。「一人称が自分の名前の女って好きじゃないんだけど」と言うと、由香里は口をとがらせて「そんなの関係ない。由香里いい子だよ?」 そう、言いはなった。(…そんなことを言われても。) このまま何を言っても通じなさそうなので、「じゃあまず、友達から」俺が精一杯に言うと彼女は首を横に振った。おいおい、やめてくれよ。周りからの視線が痛くて、「明日決めるから、頼む」と必死にお願いすると、彼女は渋々頷いた。(なんで俺こんな必死なんだ) 「じゃあアドレスは教えて」と言うので、赤外線でお互いの情報を交換した。アドレス帳には 山内由香里の文字。237番。そんな出会い、しかも昨日の事。

「今日、ほんとにきょーちん来てくれると思わなかった」
「由香里が来いって言ったんじゃん」
「そうだけど。だって最初由香里のこと嫌いって」
「言ったっけ?」
「一人称がどったらこったらーって」
「ああ、覚えてたんだ」
「覚えてるよ。由香里、暗記力いいもん」
「ふーん、意外。」
「変な女って、きょーちんの顔に書いてあった」
「わかってたの?」
「ちょっと由香里焦りすぎてたなって反省」
「なんで、焦ってたの?」

そう言って、口を閉ざした。由香里は、橋の手すりにもたげていた首を起こして、伸びをしたあと、その手すりに背中を向けてそのまま座ってしまった。だから俺も見ていた川に背を向けて、由香里と同じ目線まで下がる。同級生達はみんな、今頃まだ授業を受けているんだろうなー。

「ねえ、きょーちん何て言って教室出てきたの?」
「腹痛だから帰る、って言って」
「先生とかに何も言われなかった?」
「休み時間に出てきたから、」
「へー」
「由香里、さっきの答えは?」

困った顔をして、「聞いちゃうの?」と尋ねた。触れるべきではないのかもしれないと思いつつも、頷いてみせると彼女は立ち上がった。そして、手すりに書いてある無数の落書きという名のメッセージの中から、一つを指さした。

「これ、」

そう彼女の指の先にある白い文字を読むと
”村中恭也くんと恋人になれますよーに。 中山桃”


「…俺と、同姓同名っすね。しかも中山桃って去年同じクラスだった人と同姓同名だし」
「桃は由香里の友達。それから好きな人」
「…女の子が好きなの?」
「違う、桃が好きなの」

そう言って由香里は泣いた。彼女が最初に訊いた質問の意図がわかった。あれには続きがあるんだ、どうして由香里は女で、きょーちんは男で、桃は女なの、という。
由香里は泣きながら、この間その話を中山さん本人から教えてもらって橋の上でぼーっとしていたらこのメッセージを見つけたのだと言った。

「桃が、ももが好きなの」
「うん」
「きょーちんのばか」
「え、ごめん。ていうか今俺らが2人でいること中山さんは知ってるの?」
「知らない。たぶん知られたら友達でもいれなくなる」
「…由香里、ばかだなー」
「しょうがないじゃん。苦しいよー、もう嫌だよー」

そう言う由香里の頭をぽんぽんと撫でる。ごめん、俺は由香里を抱きしめれるほどキザな男じゃないらしい。その代わり、筆箱から修正ペンを取り出して由香里に渡す。書け、と言うと涙をセーターで拭って俺の手から修正ペンを受け取った。彼女は橋に思いを綴る。
”中山桃が好きです 山内由香里”

「じゃあ、次きょーちん」
「俺? 俺なんもないんだけど」
「いーから」

無理矢理に渡された修正ペンを握って、しばらく考えた。…どうしよう。そうつぶやいて他の書き巡らされた言葉たちを読んでいると、”ミキに永遠を誓います”とか、”今日振られちゃいました”とか、”お兄ちゃんが幸せになりますように” 世界の届かない思いが凝縮されたようだと思った。だから俺はありがちに祈りを白く文字にする。


「世界中の人が、幸せになります…ように?」
「そう、特に由香里」
「きょーちん、意外とベタなんだね!」
「うるせーな」

由香里は涙を零しながら、そう笑った。泣いて笑って、いそがしいやつだ。
一通り彼女は泣いて、最後にはすっきりした顔で俺にさよならを言った。送ってくと言いかけて、やめた。しばらくこの空間にいたかった。
手を振って背を向けて歩き出した由香里は、しばらくしたら振り返った。

「きょーちんも幸せになりますよーに!」

そう目一杯に叫んだ。うるさいやつ。つい吹き出して笑ってしまう。俺を巻き込んだ張本人が何を言うんだ。授業までサボらせたくせに。それでも、由香里のその一言につい幸せにならずにはいられなくて、僕は右手をあげて親指を立ててみる。そうすると由香里は満足げに笑って、また前へ歩いていった。
苑橋の上で世界の幸せを祈った俺は、鼻歌を歌いながら、家路へと歩く。今日の晩ご飯はカレーがいいな、なんてそんな些細な思いを胸に抱きながら。






































僕は帚星



彼女はいつも口癖のように言った。
「いつかは全部終わっちゃうでしょ。絶対、なんてない」
僕がいくら愛の言葉を並べたとしても、 きっとそれの半分くらいしか届いていないのだろう。本当に本気でここまで人を好きだという感情がこの胸にあるのに、ミキはそれを信じてくれない。
今日の夜中のメールでも、また同じ言葉。
「そのうちあたしは修太に振られる日がくるんだろうね」
それはないと何度言っても伝わらない。でもきっとそれは僕を信じていないわけではなく、 未来にたいして少し臆病なだけなのだ。…都合のいい解釈かもしれないけれど、 間違いではないと思う。それなりの日数を隣どおしで過ごしてきたんだ、それくらいはわかる。 たまにケンカもするけど、乗り越えてきた。僕にはこれからもずっと一緒にいれる自信がある。
ふうとため息をついて、返事の代わりに電話をする。


「もしもし」
「修太、通話代やばいんじゃなかったっけ?」
「まあいいんだって。ミキの声聞きたかったし」
「…嬉しい」
「はは、素直だね」
「素直です。 それよりも、どうしたの?」
「僕、何度も言ってるけど、絶対一緒にいるよ」
「…急に、」
「急じゃない。ずっと思ってるし、ずっと言ってるじゃん」
「そうだけど、」
「今から、逢えない?」
「…、うんいいよ」

僕らはそのたった数十秒の電話を終えて、逢うことになった。 こんな夜中に。だけどどちらの親も寝てる時間だ、家を出てもばれたりしない。 ドアをくぐると外は寒くて驚いた。上着を羽織に戻るのも面倒なので薄着のままでむかう。 ミキには、家の近くまで行ったらメールするね、と電話の後メールで伝えた。 さすがにこんな夜中に女の子一人歩かせる訳にはいかない。って僕紳士!

ミキの家に向かう途中の橋で、修正ペンが落ちているのを見つけた。拾い上げて、ふと橋の手すりに目をやると、無数の文字、無限の想い。いけないことだとはわかっていても修正ペンのキャップをはずして、つい書いてしまう。夜のテンションは僕を自由にさせる。暗いから、誰も見てないだろうと変な自信を胸に。

”ミキに永遠を誓います”

それだけ書き終えたら、小走りでミキのもとへむかおう。橋に書いてきたんだと言うときっと彼女は「法律で罰せられるよー」と笑うんだろう。そんなミキの傍にずっといるから、だからずっと笑ってて欲しいな。あ、僕ミキと結婚したいのかも。だけどそれを告げるのは未来でいい。君の信じれていない未来でも僕は言うよ。愛してるって。その時微笑むミキを想像しながら僕は橋をあとにした。




































コンタクトを探してください

大股を開いて、なにかを探している人がいた。苑橋の上、道路も人も多く行き交う夕暮れ時、彼は人目も気にせず地面を這っている。あんまりにも必死に、困った顔でいるから、わたしはつい声をかけてしまう。

「あの、捜し物か何かですか?」

彼ははっと顔をあげて、下がり眉のまま「コンタクトを探してください」と告げた。頷いてわたしも膝と両手をアスファルトのタイルにつけて、目を凝らす。

「すいません、迷惑をおかけしてしまって」

男性はそう口を開いた。


「いえ、全然です。気にしないでください」
「もう日が沈んでしまうので諦めようか迷っていたんです」
「そうなんですか」

左手に転がっていた修正ペンがあたった。もうずいぶん汚れていた。誰かの落とし物なのだろうか。持ち主はこの修正ペンを探してはいないのだろうか。

「もうかれこれ3往復くらい探しているのですが、無くて」
「そんなに探してるんですか?」
「はい、今コンタクトなくなったら、金銭的に結構きつくて」
「眼鏡はないんですか…?」
「あ、そっか!」

彼はがばっと立ち上がって照れたように笑った。


「そうですよね、眼鏡がありますよね。
 僕、つい今月もうお金ないしコンタクト買えないし、来週大事な会議あるのにーって必死でした。」
「あはは、そうだったんですか」
「じゃあ、帰って眼鏡かけます。手伝ってもらってすいません、ありがとうございました。」


と彼がお辞儀をした瞬間、つま先にきらりと光る、小さな粒

「ストップ!」
「へ?」

わたしが近づいて手を伸ばすと、やっぱりそれはコンタクトで、壊さないように上手に手にとって、彼に渡した。

「うわー、本当にありがとうございます」
「いえ、とんでもないです。良かったですね、あって。」
「お礼、させてください!」
「いいですよ、今月金欠ってさっきおっしゃったじゃないですか。」
「いや、まあ、そうなんですけど…」
「大丈夫ですよ」
「じゃあ、来月!来月の6日とか、どうですか?」
「たぶん大丈夫ですけど…いいんですか?」
「はい、じゃあ来月の6日、19時にここで。」
「この橋の上で?」
「はいっ!」

そう大きく頷くから、わたしは流されてしまった。そんなたいしたことはしていないのに。「じゃあ」と言って帰ってきたはいいけれど、電話番号も名前すらも聞かなかった。約束は現実になるのだろうか。
それでもいい。わたしは帰ってからスケジュール帳をめくって、来月の6日に書き込んだ。19時、コンタクトの人と。宝探しみたいで楽しかったなー、あの人の笑顔かわいかったなーと、瞼を閉じて思い出す。今夜はいい夢が見れそうな気分だ。






































鼻歌は風に吹かれる

すれ違った少年は鼻歌を歌っていた。 近所の高校の制服、まだあそこの学校の終わる時間じゃないのに、 さてはサボりかな?まあ、関係ないけれど。 わたしは彼の高校の授業時間(ちなみにわたしの母校。)の事などさっぱり流して、 彼が歌っていたメロディの続きを思い出していた。 …なんだっけ、ほんと思い出せない。あとちょっとででてきそうなのに。

横断歩道を渡って橋へ一歩踏み込むと、大きな風が吹いた。 髪の毛は必死で押さえても暴れてしまう。切ない。 この向かい風の中、ぎゅうぎゅうに踏み出すのもつらいので、 だまってここに立ちつくすことにしよう。 あー、風、ほんとやっかい。しかもホコリがたってくしゃみが出る。 この風と車の騒音があれば鼻歌を歌ったって誰にも聞かれやしない。 だから ふんふんと、ハミング開始。 彼の歌っていた一部分を何度も繰り返して、 次に繋がるメロディを探る。ふんふふん〜なんて。 途中でそれらしき音にも出逢ったけれど、やっぱりしっくりこない。

諦めて、鼻歌おしまい。手すりによしかかる。 川はしとしと流れて、反対をむけば車はごおごお流れて 手元を見れば、色んな、主に恋のメッセージがかき寄せられてて、 こんな橋の上でわたしは世界を見た気がした。

「平和だなー」

呟いてから、後悔。切なく、虚しくなってしまった。ふー。 平和ってなんだっけ。 こんな人間で作られた物たちを平和だなんて呼ぶんだっけ? アスファルトで固められた地面。今じゃ、あたりまえ。 それがなんだか切なくて、もう一度鼻歌を歌う。 さっきと同じメロディ、続きは相変わらずわからない。

足下を確かめるように見つめながらハミングしていると さっきも見た制服が、視界にはいった。 顔をあげるとさっきの少年で、ばっちりと目があった。 どうやらわたしの発していた鼻歌が聞こえていたようで、 にっこりと微笑まれた。ううう。 恥ずかしくて反対方向に体をそむける。

あー、もう。

だけどそれでも、この歌の続きは思い出せない。 少年の微笑みだけが頭をうろつく。 こんな事を必死に考えていることが、平和っていうものなら なんか気持ちがいいかもって、なんとなく そう思った。 彼はどこへむかうのだろう。それすらも素敵なこと。

大きな一筋の風が吹き渡る。わたしも、微笑んだ。





































雨の日はいつだって晴れの日

学校とあたしの家のちょうど真ん中に苑橋があった。 小中高と似たり寄ったりの場所にあるので、もうかれこれ12年はこの橋を歩いてることになる。 こう数字にしてみると長い日数だ。色んな事が、あった気がする。
だけどそんな12年ももうすぐ終わる。 推薦で受かった大学はこの橋を通らないところにある。ずっとずっと遠くに。 あたしは春から一人暮らしなわけで。ちょっぴりな不安と一緒に期待も抱きつつあるわけで。 とにかく、この今見ている景色はもう見なくなるわけだ。それが、信じられない、実感がない。

残されたあとわずかな学校からの帰り道。歩き出した途中に雨が降った。それもドシャブリ。 折りたたみ傘なんて持っていないわたしは橋の下にもぐりこむ。年に何回か、 ドシャブリ雨のたびに、雨宿りをするのだ。ずっと、そうしてきていた。
だけど今日は初めてのこと。初体験。先客がいる。
今までは友達と一緒に雨宿りしたことがあっても、知らない誰かがいるなんて初めてだ。 スーツ姿の男の人、真っ赤なハンカチで濡れた髪の毛を拭いている。…なんか気まずい。 と思ったら、すぐ女の人が来て、照れくさそうに2人並んで橋の上へと戻っていった。 女の人がさしていた、真っ赤な折りたたみ傘に仲良くはいって。

こんな雨の日も悪くないなと思った。つい、あたしまで微笑んでしまった。 なんとなく衝動に駆られて、鞄に入っていた赤いクレパスで、コンクリートに太陽のぐるぐるをかく。 2人の赤を忘れないように。いつか他の誰かが雨宿りしたときに、この橋の下はいつだって 晴れであるように。