りんごのほっぺ




優花のいつもなら真っ赤になるあのほっぺは最近じゃ見られなくなってしまった。 どうやらもうすぐ春が来るらしい。それはきっといいことなのだろうけど、少し寂しい。 一緒に過ごす時間のカウントダウン。高校二年生、十七歳セブンティーン。 志望校は2人とも地元を離れた遠いところ。
僕らはあとどれだけ一緒にいれるのだろうか。


一目惚れをしたのは僕だった。 去年の寒い寒い季節に目にとまった一人の女の子、それが優花。 冷たい風にあてられた頬はいつも真っ赤で、僕の家から5つ分離れた駅で同じバスに乗り込む。 友達と話しながら楽しそうに、真っ赤なほっぺでくしゃくしゃに笑う優花を、 好きだと思った一週間後、勢い任せと決死の覚悟で 「付き合ってください!」と深々と頭を下げたのが始まり。イン・ザ・廊下。 きっと僕のことを名前くらいしか知らなかっただろう優花は、 少し困惑しながらも静かに「うん、」とつぶやいた。 「本当?」と僕が尋ねた後の優花の顔は、きっと一生忘れない。 冷たい空気のせいではなくって、僕が染めたその頬。 りんごのほっぺで君は「ほんと」とくしゃくしゃに笑った。

あれからもう1年が経った、らしい。本当に実感がないほどあっという間に1年が過ぎた。 たまにケンカもするし、面倒になったりもするけど、やっぱりどうしても必要だと思うのだ。 その頬に触れたりキスしたりしたく、なる。 永遠って言葉が、嘘じゃないって本気で思えたりする。
だけど不安ってやつはいつまでもつきまとうもので、小さくなったり大きくなったりはするものの、 決して消えはしない。僕らの周りに、黒くふかく 存在する。

2人で並んで歩く帰り道、無言がつづく。 僕は6校時目のホームルームを思い出していた。それはきっと優花も同じ。 進路について、受験について、将来について、就職について、エトセトラ エトセトラ。 だけど一番はやっぱり優花について。優花と離れてしまうことについて。
優花は地元を離れると言ってもそこまで遠くはなく、車で2時間もあれば着くようなところ。 僕はと言えば、飛行機に乗らなきゃ行けないような場所で、そんな簡単に逢えるわけじゃなくなる。 まだそこに行けると決まったわけじゃないし、受験に失敗したとしたら、 地元に残るのかもしれないのだけれど。 なんていうか、僕らはお互い離れる道を、選んだわけだ。 僕は君を置いて遠いところへ行こうとしているのだ。 車で二時間なら週に1回は逢えるだろうけど、それ以上の距離。 年に3回くらい、もっと少ないかもしれない。 本当はめちゃくちゃ不安だ。正直4割は遠距離は無理なんじゃないかとも思っている。 今は学校とか休日とかほぼ毎日逢っているのに、それが激減するっていうのが、 ちっとも想像できない。 ため息をついても、もう白く染まらない。

「啓吾…、最近勉強してる?」
「あー英語だけ。優花は?」
「ゆうかも英語だけかな。来年の今頃はもう結果待ちだよ?怖いー」
「ほんと、早すぎだよね。」
「2人とも、合格できるといいなー…」

また少し沈黙。合格したら離ればなれ、なんてわかってるのに。 だけど夢のため、将来のため、お互いのため、自分のためにも、 恋でそういうのを譲っちゃいけないって、思う。 だけどそれは正解?僕にとって優花より大切なものってなんだ?
ずっと、これの繰り返し。答えは、いつになればどこにいけば、わかるのだろうか。


優花が突然歩みを止めた。僕も立ち止まって振り返る。

「どしたの?」
「手、つなご」
「、っぷはは。いーよ。僕と一緒に手を繋ごう」
「なにそれー!嫌ならいいもん」
「嫌なわけないよ。あ、優花顔真っ赤。」
「うるさいなー。啓吾さっきまで少し泣きそうな顔してたのに」
「いや、してませんねー」
「してたもん」
「してないもん」
「…啓吾のばーか」
「っるせ。」


未来は見えない。どうなるかもわからない。 僕らはきっと離れたところで生きていくことになるだろう。 だけど心は、こころだけは一番近くに、君といたいと思う。
だから今、いまは優花の右手を 優しく繋ぐ。このときを忘れないように。




りんごのほっぺ