世界は案外、優しい
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「3日後の午後1時発で飛行機乗るよ」
ほんの冗談のつもりだったんだよ、「送りに来てくれてもいいよ」って。
みんな笑って「ぜってー行かねー」って言ってたから期待してなかったし。
なのにさあ、ばか。

「なんで、いるの」

そういう半べそのわたしを見てみんな照れ笑い。

「来ないわけないじゃん」
「アケにばれないように早い電車で来たんだから」
「そうそう、5時起きだよ!」

感謝してよね、と大きな封筒を渡された。

「なにこれ」
「餞別!飛行機の中で見てね。」
「えー、今開けちゃだめ?」
「いいわけないじゃん」
「絶対泣くよ」
「泣かないもん」
「またまたー、強がっちゃって。」
「アケすぐ寂しい〜って戻ってきそう。」
「なにそれ、ばかにすんな!」
「素直じゃないなあ」

お客様、とアナウンス。
どうやらわたしの乗る飛行機はもうすぐ出発するらしい。
写真を撮ろうとユカが言って、すいませ〜んとおばさんに頼むと
いやな顔せずシャッターをきってくれた。
「ありがとうございました」にこっと笑ってくれた。いい人だなあ。

「もうそろそろ、だー。」
「おっけー。写真東京に送る。」
「うん待ってる」
「風邪ひくなよー」
「ありがと、」
「ディズニーランド行くから泊めてね」
「わかった。」
「寂しいって泣くなよー」
「泣かないって、」
「…だめ、ユカが泣きそう」
「ちょっ…ユカ〜」
「アケ、乗り遅れちゃうよ」
「泣いちゃう前に早く行っちゃってー」
「そうそう、乗り遅れちゃうよ」
「ありがと、じゃあ そしたら行くね」

じゃーね、気をつけてね、頑張れよ、優しい言葉を背中に受けて、
何度も何度も振り返って手を振った。
見えなくなるまで、手を 振った。


バタバタと、飛行機に乗るとどうやら席は窓際だったらしい。
ゆっくり、じわじわと前に前に進んで、ゴーという風とともに離陸。
住んでいた町がどんどん、どんどん小さくなってゆく。
車道がまるで地上絵のようで、車が豆粒ほどになって、雲の上でなにも見えなくなった。

そうしてわたしはゆっくり封を切る。
一冊のアルバム、ぶさいくなブタのキーホルダー。
アルバムを一枚一枚めくってゆくと、3年間の思い出とみんなからの手紙。
今、飛行機ですか?って、3年間こんなことがあったねって、
いつもありがとうって、大好きだよって、優しい優しいみんなからの手紙。
みんなでおんなじ制服を着てピースして笑っている何枚もの写真。
さっき泣かないって言ったばっかりなのに、もう涙は止まんなくて、
隣のおじさんは、ぼろぼろ泣くわたしを細くあたたかい目で見守ってくれた。
滲んでもブタは、やっぱりぶさいくで、でも憎めなくって愛らしくって、
みんなみたいだと思った。胸がぎゅっとしめつけられる。
永遠の別れじゃないってわかってるのに、夏なんてすぐ来るのに
これからの毎日にみんながいないって、すぐみんなと会えないっていうことが
今すごく不安で寂しくて悲しいよ。


気づけば泣きつかれて眠っていて、知らない間に東京、だ。
重たい瞼を開けてゆったり、荷物を受け取って、がらがらと引きずる。
知らない人たちに囲まれて、ぶつかったり、追い抜かされたりしながら。

エスカレーターを何度も下って、赤い電車がホームへやってくる。
わたしの頬をなまぬるく横切ってゆく風、キキーという音、ガシャンと扉が開く。
ふう、と一つ息をついて重たいキャリーを持ち上げて乗り込む。
ガタンゴトンと音を立てて地上に出ると、
早送りの景色のなかに桃色が見える。
風になびく桜の木々は陽に照らされてあたたかそうだ。

していたはずの覚悟は簡単にくだけてしまう。
さっき別れたばかりのみんなが恋しい。
ずっと前からわかってたのに、現実は想像以上のようだ。
だけどそれでも、みんなの言葉が背中を押すから
わたしをそっと優しく支えてくれるから頑張るよ。
この遠い街で一人、頑張るよ。がんばるよ。