また、あした。
「野口先輩、彼女と別れたんだって」
突然耳に入ってきたニュース。
きっとわたしが一番聞きたくて、聞きたくなかった言葉。
「あゆこ、どうするの?」
「どうするって?」
「つけいっちゃえば?」
「だからもう、そうゆうのじゃないって」
りっちゃんの言葉に平然を装う。
そういうのじゃないよ。そういうのじゃない。
言い聞かせるように心で繰り返す。
迷っちゃだめだ、叶わないのに願うのはあまりにもつらいから。
野口先輩じゃなくたって好きになる人はいるはずだから。
本当に?
ただの部活の先輩と後輩で、
ただ他の人より趣味があうおかげで仲がいいだけ。
そりゃ最初は好きかなあって思ったこともあったけど、
そのすぐ後に野口先輩には6年間付き合ってる彼女がいる ということ
を知って、諦めるしかないなあと突きつけられた。そして
6年間も誰かを好きだって思えるだなんて なおさら素敵だなあと
納得するしかなかった。
それでも好きでいいかなって、きっと他にもいい人いるよねって、
呪文のように何度も言い聞かせて諦め始めた時だったのに。
野口先輩のことを、きっとわたしと同じように諦めた子なんて
山ほどいるんだろうなあ。
他の子たちはどうするのかなあ、わたしはどうするのかな。
どうしたいんだろう。
「あゆこじゃん」
その声が誰かだなんて頭よりも心臓が先に教えてくれる。
「野口先輩」
「まだ帰らないの?」
「忘れ物しちゃって、引き返してきました。」
「まじか、どんまい」
「先輩は何やってるんですか?」
「先生と進路相談」
「東京、でしたっけ」
「どうしようかなーって、ね」
「そうなんですか。」
「うん。てかあゆこ元気ないね。どした?」
びっくりした。なんて、言おう。
「先輩、元気ですか?」
「へ、俺?元気だよ?」
「大丈夫ですか?」
「あ、あれ?別れたこと?」
首をまっすぐ一回、おろす。
先輩は「はえーな」と笑う。だめだ、泣きそう。
「よく知ってんね」
「野口先輩人気者なんで、みんな知ってますよ」
「ふは、こわいこわい」
「へへへ」
「なんであゆこが泣きそうな顔してんの」
「してません」
そう言って、泣いた。涙が勝手にあふれた。
わたしの意志じゃない、先輩を困らせたいわけじゃないのに。
「泣いてませんー」
「ははは、泣いてんじゃん。どうしたー?なんかあったか?」
「泣いてません」
「よしよし、泣くな。ほら飴やるから」
「別れちゃ いやです」
「なんだよー、俺だっていやだったよ」
「な なんでっ、別れたんですか。」
「終わるべくして終わったんだよ」
見上げたら、先輩は笑ってて、その顔には一点の迷いも悲しみもないから、
ぐっとつばを飲み込んで、涙をぬぐった。
そして大きく息を吸う。
「先輩、好きです。」
「はげましてくれてんの?」
「違いますー、ずっと好きだったんです」
「……、」
「でももう嫌いです」
「はやっ」
「うそです。でも今は忘れてください。
でも忘れないでください」
「どっちだよ」
「へへー、わたしのことで悩んでください」
「即効忘れてやんよ」
「ひどい!」
「うそだよ」
「じゃあ、先に帰りますね」
「ん、おつかれ」
「泣いちゃってごめんなさい」
「全然です」
「そしたら、また明日。」
「あゆこ!」
「ありがと、な」
首を横に二回、
それから大きく一回縦にうなずいた。
やさしく手をふる先輩に合わせるように、
わたしも手をふって前をむく。カバンを背負いなおす。
それから気づかれないように、なるべく静かに、
なまぬるい涙を流した。
まっすぐなさよなら
(今日だけでもいいよ、どうかわたしを想っていて)
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