数え切れないほど伝えた すき も あいしてる も全然足りなかった。まだ、伝えたい。貴方にどうしても、伝えたい。
一週間メールが来なくたって、いつものことだろうと思った。
ケータイの調子、悪いって言ってたから。
それ以外の理由なんて、
まさか終わりを考えていただなんて、
これっぽっちも思ってなかった。
日曜、午前十時、夏の終わり
久々に来たメールは唐突で、たった3行。
「好きじゃなくなった」「今までありがとう」「ごめん、さよなら」
冗談だとしか、思えなかった。
送信元は何度確認したってサト。
友達か誰かがサトのケータイを使って、勝手にそんなメール送ってきたのだと、
そう思って半日待ってみても連絡はない。
震える手で電話をかける、何度目かのコールの後に聞こえてきたのは
「ごめん」、その一言。
切断音。
信じたくないのに、わかってしまう愛おしい人の声。
息が、うまくできない。
涙も流れない。
何度かけなおしても繋がるのは留守番サービスで、
震える足で電車に乗った。片道40分。
駆け抜けるのはよく知った道、いつもならば愛おしいこの道。
インターフォンを鳴らして、返事を待つ。
待ちきれなくて何度も何度も鳴らすけれど、返事はない。
「日曜に、もう一度来るから、話をさせてほしい」
コンビ二で買ったチョコレートにそれだけメモして、
もらった袋を開かない扉のドアノブにかける。
どうかどうか、嘘であってと願いながら。
くたくたで夜の布団、新着メール1件。
「ごめん、会いたくない」
もう言葉が出なかった。
たったそれだけの言葉なのに、もう戻れないことだけはわかった。
私がどんなにがんばったって、彼の気持ちは二度と私に降りそそがれない。
なんにも知らないところで悩んでしまう彼だから、
一度決めたことは覆らないこと私が一番知ってるから。
どう駄々をこねたって、この恋はもう終わってしまう。
けれどどうしても 会わないことを選べないから、最後のわがままを言う。
「サトの決意は揺るがないのわかってる。
これが最後でいい。最後でいいから会うことを、許して欲しい。
さよならと、ありがとうを言わせて欲しいから日曜日に待っていて。」
涙で濡れた送信ボタンを、押す。
会うのが怖くて怖くて仕方がない。
だって本当にいつものサトのメールだと思えなくて、
いつだって私を許してくれた優しいサトの言葉だとは思えなくて、
日曜日に本当に私を待ってくれているのかどうかさえ、わからない。
部屋の鍵だけ開いていて、置手紙だけで もしさよならを告げられたら、
私はこの恋の終わりを、サトの気持ちを、
どう仕舞っていいのかわからなくなるのだろう。
苦い深呼吸を何度もついた。
過ごしてしまえば日曜日なんてあっという間で、
久々に会える嬉しさと、会えばすべて終わってしまう苦しさで、
はやくサトの部屋にたどり着きたかったし、
一生行ってしまいたくなんかなかった。
だけど、行かなくちゃ。
苦しいけれど、大好きだけれど、この恋を終わらせなきゃ。
サトが一番好きだって言ってくれた笑顔で、さよならをしなきゃ。
電車の到着時間は午前十時を半分回ったところ。
どうしようもなく、終わりが始まる。
インターフォンを一度だけ鳴らして静かにドアを引く。
廊下を抜けると、サト。
いてくれて 嬉しい。
「おはよ」
サトはなにも言わないけど、苦笑で会釈を一つくれた。
ぎこちないけれど私は、笑顔で震える声で、いつも通りの会話を始める。
「これが荷物、うちにあった服と、借りてた漫画」
「ありがとう」
「そいえば私、髪染めたの」
「ほんとだー、でもちょっとしか変わってないね」
「そうかな?」
「前もそんな色だったじゃん」
「そっかー。」
「うん」
「、あ と、私の荷物は?」
「ああ。」
置いていっていたパジャマ、忘れてたピアス、貸していた漫画。
一緒に見るつもりで置いておいたDVD。
ふたりで見れずに、私の手元にかえってきてしまった。
「サトの気持ちに、気づけなくってごめんね。
就職のこととか悩んでたの知ってたのに、
一番つらい時に、なんにも助けてあげられなくて、ごめん」
用意してた言葉、だった。
別れを言い放たれて、本当に本当に信じられなかったけれど、
だけどそれでも受け入れることしかできないから、
だから ごめん。
力になれなくて、私のことで苦しませて、ごめん。
サトは眉を下げて「そんなの、俺の台詞なのに」と謝った。
「泣かないで、笑って、お別れしよう」
手を握ると握り返してくれた。
あたたかくて、やわらかいけれどごつごつしていて、
私の、世界で一番好きな手。一番愛おしい手。
彼の反対の手は私の頬をなぞる。
好きになったあの日みたいで、苦しいけれど、嬉しい。
触れ方も、あたたかさも、手の形もなにも変わっていないのに、
気持ちだけどうして変わってしまうのだろう。
怖かったけれど「もう、戻れないのかな?」と口にしてみると、
「ごめん」 それだけ。
小さく、けれど強い意志のこもった一言で、ついうつむいてしまう。
手を強く 握りなおす。ゆっくり、顔をあげる。
「好きになってくれて、ありがとう。
サトが好きって言ってくれるたびに私は私で、
生まれてきてよかったって 思えたんだよ。」
「本当に、夢みたいな時間だった」
「あいしてる」
サトは頷くだけだけれど、それでも耳を傾けて、
私の言葉を自分の体内にゆっくり、取り込んでくれた。
私はどうしてこの愛おしい人と別れなければならないのだろう。
こんなに好きで好きで、仕方がないのに。
ああ、だめだ。このままこの部屋にいるときっとサトを責めてしまう。
ダメなところは直すからもう一度彼女にしてほしい、
なにもしなくていいから、全部嘘だったって一言言ってくれれば そ
れだけで私はあなたを許すから、
笑顔で ありがとうなんて そんな終わりみたいな言葉いわないで、
「じゃー、帰る ね。」
「ん、駅まで送れなくてごめん。」
「ううん。」
「今までありがとう」
「こちら、こそ。ありがとう」
くつを履いてドアをあける。背中に立つサトを抱きしめても、
もう抱きしめ返してなんかくれない。
泣いてしまう前に、笑顔で、あなたが好きになってくれた笑顔で、
手を振って ドアを、閉めた。
追いかけてくれるわけもないのに、私の背中はそれを期待していて、
もう一度抱きしめられたいと懇願していて、
この涙をぬぐってほしいと、祈るようなわがままを抱いている。
終わりがあれば始まりもあるって、
新しい出会いの為の別れだったんだって、友達は励ましてくれるけれど、
ねえ サト。
私はこれから迎える全ての素晴らしい新しい出会いを捨ててもいいから、
サトとの別れだけはむかえたくなかったよ。
好きになってくれて嬉しいと思う。
でもこんな終わりならば最初から好きになんてなって欲しくなかったと思う。
サトより素敵な人もきっといると思う。
でもサトより好きになれる人なんていないと思う。
サトの欠点なんてたくさんあると思う。
でもサトがサトってだけで もう愛してる。
どんな顔も、どんな態度も、好き以外ない。
こんなに幸せたくさんもらったなら、次の恋もきっと幸せになれると思う。
でもこんなに好きなのに叶わなくなるのなら、
もう一生恋なんてしなくていいと思う。
サトがいなくてもなんとかなると思う。
でも ずっと忘れられないと思う。
だけどそれでも、それでも心からありがとうがあふれ出す。
頼りにならなくて、甘えてばかりで、わがままばかりで、本当 困らせてばかりで。
一番必要な時に力になれなくて、ごめんね。
どうにかして彼女に戻りたい。
大人になってサトともう一度恋できたらいいのにと思う。
けど、哀しいけれど、やっぱり終わるべくして終わったんだとも、思う。
どうしようもないことで、それが運命で、そう決まっていたんだと、思う。
でもね、サト。
こんなにつらくなるって、こういう終わりを迎えてしまうって、
きっとわかっていたって好きになっていたと思う。
それが例え一瞬でもあなたから愛されることを望んでしまっていたと思う。
そのくらい幸せだったんだよ。
自分でもびっくりするくらいサトのこと、好きになって
そんなサトが私のこと好きになってくれて、大切にしてくれて
夢みたいだって、ずっと思ってたの。
やり残したことを挙げればキリがないけど、
後悔だらけだけど
やっぱり泣いちゃうけど
それでもサトと出会って恋をして、
長くて短い間だったけれど、
こんなにも好きになった人に好きになってもらえたこと
忘れずに 生きてゆきたい。
胸を張って 生きてゆきたい。
帰りに買った新しい手帳に、サトの名前が刻まれることはないのだろうけれど、
記念日もデートの日も書かなくなってしまうけれど。
いつか、ずっと先でもいい。
サトとおいしいお酒を飲める日がやってくればいいなと思う。
まだ、この大きな穴の埋め方はわからないけれど、
下手くそながらになぐさめてくれる友達が私のケータイを鳴らすから、
一人じゃないから、きっと大丈夫。
うん。大丈夫。
宝物みたいな日々を、サトと過ごした日々を、
ゆっくりきれいに封をして、胸の陽だまりのようなポケットに置ける日がきっと来るから。
まだまだつらくて、許されるならば戻りたいと願ってしまうけれど。
前に、前に前に、進むよ。
だから、さよなら。
だから、ありがとう。