二人でファストフード。忙しくてすれ違いばかりのこのごろだったから、 ゆっくり話したいね とカセが言って、土曜日のお昼過ぎ 次々と おなかを満たした人たちが席を立つころ、私たちは よく陽のあたる席へと案内された。 二人で同じランチセットを頼むと渡されたのはスープカップ。 スープバーが付いてくるらしい。

「行ってきてあげる、カセ何のむ?コンポタ?」
「うん、クルトン多めでね!」
「わかってる、わかってる」

カセのカップには半分スープ、半分クルトン。 お店の人ごめんなさい、でもおいしいみたいなので許してやってください。 そう小さく心の中で祈って、私のグラスにはコンソメスープをいれる。 すーっと鼻を通る良い匂い。


「おかえり、ありがと」
「クルトンこんくらいでいい?」
「うん!さすがナエ、わかってんね」
「ちょっと恥ずかしかったよ。
 いっぱい入れたからクルトンがもう容器の半分も残ってないの」
「ごめんなさいだね」
「ね。」

二人でズズズとすする。 私がすぐ飲み込んだのとは反対に、ずっと口をもぐもぐさせてるカセ。 可笑しくなって「変なの」と笑うと、「なんだよー」と怒られた。
口を尖らせたあと笑うカセを見て、何年も前の夏を思い出した。 まだ二人とも子供で、でもそれでも互いを大事にし合ってた日々。 いつまでも胸の真ん中で光る、まぶしい日々。


「やっぱコンポタにクルトンいれた人、天才」

思い出していたことに、カセがそんなことを言うからびっくりした。 なんにも変わってないね。陽だまりが心に真っ直ぐ届く。

「変わらないねー」
「いつと?」
「いつだっけ、付き合って…一年くらい?の時と。」
「何で、変わったよ!」
「だって同じこと言ってた。」
「言ってた?」
「そのころアホみたいにずーっと、ほにゃらら考えた人は天才だーって。
 カセ言ってたじゃない。覚えてない?」
「覚えてる」
「ほんとに?」
「いま思い出した」
「えー、嘘でしょ?」
「ニケツしたり、アイス食べたりしてた。」
「アイスはいつも食べてるじゃん。」
「まあね、ふふふ 否定しない」


「変わったの?」
「へ?」
「カセ、さっき変わったって言ってたじゃない」
「変わったよ!大人になった。」
「そうなの?大人になったの?」
「うん、働いてるしね」
「そうだねー、…そっかあ あの時学生だったもんなあ」
「ね、若かった。今も若いけど」
「うちらも長いね、」
「でも大事なとこは変わってないよ、大丈夫。
 今ナエがちょっぴり不安な気持ちになったのもわかってるよ。
 安心してね。ナエのそういうとこも変わってないしさ、大丈夫」

なんともない顔で、スープをすするカセ。 まったく、なんでこの人は私の不安を簡単に消し去ってしまえるんだろう。 …天才?

「ありがと、」
「あ そう!」
「、なに?」
「俺こないだ天才じゃなくても、みんな見つけられること発見したの」
「…ん?」
「音楽!俺さー、音楽だけはみんな天才じゃなくてもできると思うの。
 音楽っていう概念が今もしなくってもつい口ずさんじゃうと思うんだ、
 名曲は確かにすごい人じゃないと無理かもしれないけど。」
「カセよく意味わかんない曲生み出してるもんね」
「うるさいよ!意味わかんなくないし!」
「ふふふ、で?」
「やっぱすげーなーって。」
「…オチは?」
「おしまい!」
「…話はいつまでもへたくそだよね、」

でもたまに心臓にグサってくるほど的確なこと言うよね、とは言わない。 教えてあげない。うるさいなーとまた子供みたいに口をとがらせる カセを見て、つい口元がゆるむ。

「次は俺が行ってくるね」
「あ、ありがとう」
「なにがいい?」
「じゃあ私もコンポタで」

持って帰ってきたのはクルトン山盛りの、カセとお揃いのコンポタ。 クルトンがふにゃふにゃに浸ったコンポタ。

「クルトン…」
「ナエも食べるべきなんだって!おいしいから!」
「もう、ランチ来る前におなかいっぱいになっちゃうよー」
「あ、そっか!ごめん」
「まあいいんだけど、おいしいから」
「でしょー?」

あったかい陽だまりのなか、ふたり会えなかった時間を埋めるように ゆっくりゆっくり話すたくさんのこと。 どうしてもカセに触れたくなってしまって、足を伸ばしてかせのくつを 踏んづける。「痛いですよ、」と踏み返される。 出会った時と、何年も前と変わらない顔で笑うから、 なんだかつい泣きそうになってしまった。

おなかいっぱい食べて、尽きるまで話そう、今までのこと これからのこと。 そうしたら二人で手をつないで帰ろう。 あのころ描いた未来がここにあるよ、ふたりの未来。 これからもずっと続く光の先で、一緒に笑っていようね、カセ。


繋いだ手、陽だまりの温度